凝縮の美学 名車模型のモデラーたち展


スクラッチビルドのモデラーの方々は、自動車メーカーが製作することのないスケールモデルの世界に踏み込みます。資料を集め、実車のレストア工場を取材する。図面を引き、素材を厳選、部品を作るために治具の試作を繰り返し完成させる。ここまで到達するにも1年以上という時間が過ぎています。そして、やっと実際の作りが物始まり、気の遠くなる作業の連続となるが部品ひとつ一つに意思と愛情をこめて創ります。

世界と日本のトップモデラーが競演する素晴らしい美術展が東京・INAXギャラリーで開催されています。完成した作品だけでなく、モデラーの方々の製作過程や部品を作り上げていく過程、部品を作るために製作した治具なども展示されており、それは卓越した技術力、造詣の深さを知らしめてくれる芸術の世界があります。





濱上晴市さん

ビス一本まで忠実に表現する驚嘆の世界があります。展示されているのはブガッティなどの作品の他、部品、図面、オリジナルの治具が展示されています。

スポークホイル製作治具と完成した
スポークホイール

細かい作業を行うために自作したピンセット


ブガッティの図面と完成した作品
モーガン スリーホイラー
水野秀雄さん

カーグラフィック2005年6月号より連載された水野秀雄さんの「創造のチカラ」から、ミラージュM3 、P68、P69などが展示されています。

ミラージュM3 P68
P69 アルピーヌA220Bの製作過程
高梨廣孝さん

金属だけが持つ重圧感で忠実に製作・展示されていたのは、ブラフシューぺリアSS100 、ドゥカティ851などです。

ドゥカティ851
フシューぺリアSS100 叩き出すフェンダー製作の治具と
完成したフェンダー
ジェラルド・ウィングローヴさん

2000年にエリザベス女王からMB(Member of the Order of the British)を授与されたウィングローヴさん。日本で紹介されたのは、1976年2月号のカーグラフィックに特集された「ウィングローヴの世界」。今回は、代表作のイスパノ・スイザが展示されています。

イスパノ・スイザ
アリステア・ブルックマンさん

元ヘスケスF1のミッション設計者、今にも動き出しそうなエンジンを造り出す。フェラーリF500の作品が展示されています。

フェラーリF500
酒井文雄さん

日本人唯一のプロモデラー、ジャガーD タイプ、ポルシェ356を出展されています。


ジャガーDタイプ
ポルシェ356
山田健二さん

「なぜ素材にバルサ板を選んだのですか」と質問すると「お金が掛からないから(笑)、ホームセンターなど何処でも購入出来る材料だから」と答えてくださいました。
本当のことを言えば「バルサ板などの木材」は山田健二さんの得意分野、帆船模型造りで木材の特性を熟知していたので自然の流れだったのです。
長年培った帆船造りのノウハウはフェラーリを当時の生き物して蘇らせています。完成したフェラーリの美しさは「ゴワゴワ感が醸し出す当時の美しさ」にあると思います。綺麗に仕上がると「現代にレストアされた」みたいな感覚となってしまいます。山田健二さんのフェラーリレッドの質感は素晴らしく、当時の手で叩いた金属を感じさせるすばらしい作品です。

フェラーリ250GTO フェラーリ テスタロッサ
フェラーリ F40 山田健二さん
斎藤勉さん

真鍮製のホンダS800、フェラーリモデューロを展示、製作途中のカングーロはトークショーで公開されました。

ホンダS800 フェラーリモデューロ
トークショーの情景

幼い頃から現在までの物造りの様々な経緯のお話があり、スクラッチモデルを創るキッカケとなったのが1989年に発表されたマツダ・ミアータのコンセプトカー「クラブレーサー」だそうです。

ミアータ クラブレーサー スクラッチモデルのミアータ クラブレーサー
クラブレーサーのレプリカの
製作も続けられています

スクラッチモデルとして「アルファロメオ カングーロ」を選んだ理由は二つ。ひとつは、クラッシュして現存していないと伝えられており、この美しく流麗な車を形にして残しい。もう一つは、カングーロが日本で紹介された当時、FRPのボディと伝えられていたが実車はアルミのボディであったこと。そして、いつかは板金で模型を作ってみたいと言う願望から始まり、今日までは5年の歳月が掛かり、完成まであと3年はかかると思っているそうです。
本物のカングーロが復元されていることは、スクラッチモデルを創り始めてから知ったそうで、一昨年アバルト美術館にて完成したカングーロと出会いボディなどに手直しが入っているそうです。

アルファロメオ カングーロ
ボディの板金
手作りボルト・ナット M0.4 - 0.1 シャーシ
ボールジイント
マグネシウムホイール
エンジン

斎藤さんの製作途中のカングーロをご覧になった、ある自動車メーカーの開発担当者は「本物をつくる方が簡単だ、斎藤さんは一人で本物をいとも簡単に作ってしまうだろう」とおっしゃっていました。
トークショーの最後に、物作りをしながらいろいろなことを学んだことをお話して下さいました。それは、

1. まずはやってみる
つべこべ言わずやってみる。そうすると何らかの答え、方向性が見えてくる。
2. 見方を変えると考えが変わる
世界にはいろいろなものを作る人がいる。例えば、マイクロ・ミニチュアアートでは、髪の毛の断面に穴を開け、その中に1輪のバラを描く。ノミの背中に鞍を置き、足に蹄鉄をはかせる。横にした針穴の中にラクダのキャラバンとオアシスの木を置く等、これを見ると、自分が作るものはまだまだ本気ではないと考え方が変わる。
3. やめないうちは まだ途中
マグネシウムホイールはようやく1年かけ作った、やめなければ途中と言える。結果的にはあきらめないことが大事。不可能と思っていたことができたと同時にそれが普通のことになってしまう。普通になると、ステップ・アップができる。

おわりに
山田健二さんと斎藤勉さんのお二人のモデラーの方とお話する機会がありました。お二人に共通していることは「日々感動の連続で、失敗が続いても止めないうちはまだ途中」」でした。妥協のないモデル造りの原点はここにあったのです。

INAX様の企画展はとても素晴らしい。見せる側の努力とモデラーの方々のクオリティの高さが高次元で融合し、何度でも足を運ぶ美術展だと思います。東京だけでなく大阪、名古屋でも開催されますので是非ご覧になってください。そこには「写真では表現出来ない世界」があります。

INAXギャラリー http://inax.lixil.co.jp/gallery/
ギャラリー東京 2011年 6月3日(金)〜 2011年 8月20日(土)
ギャラリー大阪 2011年 9月3日(土)〜 2011年11月17日(木)
ギャラリー名古屋 2011年12月2日(金)〜 2012年 2月23日(木)
ギャラリー大阪においても、斎藤勉さんのトークショー「アルファロメオ カングーロ 1/24への挑戦」の開催が決定しました。
(professorイノウエ)