|
わたしの356物語 〜いきなりポルシェ356大試乗会〜
|
|
|
|
今回、私と憧れの356が触れ合えるのは午前中だけと言われていたので、どれだけ濃密な時間が過ごせるか、それを色々と考えると前の晩は眠れなかった。
いよいよガレージのシャッターが開くと、スヤスヤと眠る子供のように6台の356はあった。それは保育園のお昼寝タイムに安らかな寝息をたてて眠る子供たちみたいだ。エンジンもかかっていないのに、このクルマたちが確かに生きていると感じるのは事前にオーナーの方から動態保存をしていると聞いていたからではなく、ガレージの中のニオイと手入れの行き届いたガレージの中にいる、手入れの行き届いた356の佇まいがそう感じさせたのだと思う。以前、旧い欧米車を扱うお店を訪ねたことがあったけれど、埃だらけの保管状態では眠っているなんてとても感じることはできなかった。でも決まったオーナーのいない、愛してくれる人のいないクルマなど、みんなそんなものなのだと思う。たとえあちこちがボロボロでも大切にされ、イキイキとして見えるクルマだっている。
|
|
|
ガレージの安らかな光景にウットリしている間もなく、「それじゃ、A(356A)から行こうか」と我が子を連れ出すのを待ちきれない様子のオーナー。エンジンスタート前にアクセルペダルを4回ほどキコ、キコ、キコ、キコと踏み、イグニッションをひねると356Aは素直に目を覚ました。
356Aは本格生産に入る前のモデルを入れたらグリュミント製、Pre-Aの次だから3代目と言うのだろうか。ポルシェ356の設計は1947年に始まり、翌年に最初のモデルが完成。1950〜1955年の間に製造されたモデルを356 Pre-A、1955〜1959年に製造されたモデルを356A、続いて356B(1959〜1963年)、356C(1963〜1965年)と呼ぶ。ちなみに現在で6代目となるポルシェ911は356の後継車(1963年〜)と称される。
|
|
|
以前に一度だけ1960年代のポルシェ911を運転したことがあったけれど、坂道発進から始まった初運転はクラッチの繋がりもあいまいで、シフトチェンジも難しかった。カーブを曲がるのだって「とにかく優しく優しく扱わなければ…」、と感じさせる不安というか特別な扱いが必要な乗り物だというのが私の旧いポルシェのイメージ。
|
|
|
そんな私にとって356Aは356の中でも古いモデルだから、より運転も難しいのではないかと思わずにはいられない。そのわりにオーナーはスイスイと356Aを走らせていく。オーナーだから当然? 少しフワフワとする乗り心地はいいし、1.6リッター・エンジンの加速もとても軽くて十分に速い。ハンドル操作にボディもタイヤも遅れることなくついてくるのだから、ボディのカッチリとした感想は助手席に座っていてもわかった。いっそこのままずっと助手席でドライブを楽しんでいたいとすら思った。
|
|
|
「(356)Aは1速から2速のシフト操作に気をつけることと、ブレーキがドラム式だから、それだけを気をつければ大丈夫」。そう言われてヘッドレストもなく2点式(腰だけ)シートベルトのついた運転席に乗り込むことになった私は、嬉しいけどちょっと気持ちは重い。動き出す前にシフト操作の練習をし、バックギアの入れ方を教わる。そして、そ〜っと、走り出してみた。重くも軽くもないクラッチ。ゆっくりとペダルを緩めていくとミッションと繋がるポイントもちゃんとわかり、思いのほかスムーズにアクセルを踏み込んでいくことができた。緊張の2速へのチェンジ。人生最大の丁寧な操作を心がける。(「アレ?意外とスルッと入ったんじゃない?」)心の声が聞えたのか、オーナーに「そんなに難しくはないよ」と声をかけられ、声なく頷く私。
|
|
|
もっとペダルルフィールにブカブカ感があるのではないかと想像していたドラム式ブレーキの操作も、ディスクブレーキのようなシャープさはないものの、街中で減速や停止するのに何の難しさも不安もなかったのだ。同行してくれた方の説明によると、50年前のクルマのブレーキと考えたら、ポルシェは十分に性能の高いブレーキを当時から開発していたと言えるそうで、確かに納得できた。
次に私が慎重になったのはUターン。一度でまわりきれなければ、切り返すことになる。356初心者にとってクラッチ操作の不安は解消されたものの、慣れないクルマのクラッチ操作を低速で行う頻度はなるべくなら減らしたい。すると「据え切りしても大丈夫だからさ」とオーナーの声。何て素晴らしいのだろう、356!
|