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エンスー男のもてなし方  

ミエちゃんから、「新しい男を紹介する」と電話がかかってきたのは、3年前のことだった。

「イギリスのバックヤドビルダーは、○△□?」なーんて、イギリスの老舗自動車雑誌「Car」のバックナンバー片手に、クルマ論を展開するオトコだった。ミエちゃんと並んで座ったそんな彼の姿を、一緒にお茶しながら私は眺めた。

彼は広げた「Car」のページを、わざわざ彼女にも見えるように、彼女の身体の前に半分つき出していた。それなのに、ミエちゃんときたら、ツバをとばざんばかりの勢いで懸命に話す彼の横顔を、うんうんと時折あいづちを打ちながら、ずうぅぅぅーっと見つめていた。

っていうか、いくら私が自動車カンケイの仕事をしてるからったって、カノジョの友達と初めて会うのに、「Car」のバックナンバーなんか持ってくるかぁ?と思ってみたのだが、わざわざ持ってきたわけではなく、いつもクルマに積んである、ということらしかった。

しゃべりたい彼。それをただ見つめていたいカノジョ。アホらしくて、二人の世界に加わる気にもなれなかった私は、黙ってコーヒーをすすりつつ、頭では別のことを考えていた。いや、心配していた。

何が心配だったかって? コイツ、アタシが頼んだアンズのタルトの上に、ツバとばすんじゃないだろうか……。

私は、ものすごく善いことをしたのだと思う。「オースティン・ヒーレー・スプライトには、イギリスでも“カニ目”って意味の愛称があるんだ」なんて、たまに間違った知識が織り交ぜられていたが、訂正したい気持ちを我慢した。「MGミジェットはクローム・バンパーの方がいい」と言われても、「え、私は気取らないラバー・バンパーの方が好きだな」と自分の意見を主張しなかった。その上、疑問形の服を着た、断定的な自論だって、一切否定しなかった。

カンペキだ。一切の合いの手を入れず、聞き役に徹するのは、女連れエンスー口プロレス男に対する最上級のもてなし方だと思う。その上メカ音痴、且つ、運転のスキルだって大したもんじゃないにも関らず、私には自動車が専門分野というスペックまでついているのだから、めちゃめちゃ気持ちよかったかもしれないなぁ。黙ってロータス・エリーゼ助手席に座らせ、レーシングドライバー並みのテクニックでもって、鮮やかにタイトコーナーを切り抜ける、ってな、クルマ好き女に対する最上級のもてなし方で返礼してもらっても、バチはあたらないんじゃないかしらん?
(次回に続く)