|
バックヤードビルダー男 |
 |
|
いや、私のことはどうでもいいんだ。そう、ミエちゃんである。
で、そういう男とつきあうようになったミエちゃんの、新しいクルマを見た私は……笑いをこらえきれなくなってしまった。だってアンタ、ボアアップして、丸太かと思うようなマフラーをつけたスカイラインに乗ってたときは、「クルマはイジってナンボよ」って言い切ってたよねぇ。そのアンタが、屋根のてっぺんからタイヤの接地面まで、オリジナルパーツで固めたMGBに乗るとは、お釈迦様も神様も、思いもよらなかったでしょうよ。 |
|
 |
「あ、言わないで、言わないで、言わないでーっ。今から思い出すだけで、顔から火が出ちゃうわよ。週末になると湾岸に通ってた自分を思うとウソみたいだけど、ホント、趣味趣向がいつ変わるかなんて、わからないものよねぇ」
いや、わかってるから。男が変わるタイミングだって。と、彼女に真実を告げるのをやめたことについても、私は正解だったと思っている。恋する女に何を言ってもウマの耳にナンとやら。今の彼女にとって、念仏ほどのありがたさを持ちえるのは、バックヤードビルダー男の、時には間違ってる話だけだ。
 |
|
「本当はクローム・バンパーの方が素敵なんだと思うけど。ほら、あんまりクルマ好きだと思われても恥ずかしいだろって、彼が言うもんだからネ〜。ホント、私のことよくわかってるのよ〜、彼って」
いや、一般社会の中では、MGB自体が十分に、すんごいクルマ好きのクルマだから。ラバー・バンパーとクローム・バンパーの違いが何かなんて、きっとモータージャーナリストだって知らないひともいるからっ。第一、バンパーの素材や形状に、目の焦点しぼっちゃうのって、旧いクルマ好きのいわゆるエンスーしかいないから。っていうか、いつから語尾をのばして喋るようになったんだ、オマエはっ。
と半ば呆れつつも、私はミエちゃんのような女が好きだ、と、あらためて思った。
|
惚れた相手の世界を、自分のものにしてしまいたい、というのは、ほとんど女の本能なのだろう。相手好みの髪形に変える女を、バカバカしい、とか、オトコに依存する女だ、とか決め付ける女は、身も心も焼きつくす恋に命をかけたことがないんだと思う。人生の折り返し地点に近い私は、さすがにもう、オトコの好みにあわせてガラリと髪型を変えることは絶対にないが、ガラリと髪型を変えたことのある女としか、友達になれないとは思う。
|
|
|
|
|